ひとひら通信2000/5月


ワルツの時間コメント1
ワルツの時間コメント2
ワルツの時間コメント3



 堀 晃 個展「海の話」のお知らせ
 5月9日(火)〜5月15日(月) 東京 日本橋三越 6階特選画廊

 

下田逸郎のアルバム
'91 泣くかもしれない
'96 離島にて
'98 いきのね
 のジャケットに絵を提供してくれた堀 晃の個展が東京 日本橋三越 6階特選画廊にて開かれます。
「いきのね」のレコーディングが行われた堀 晃アトリエは山口県の日本海の海際にあります。
「海の話」というタイトルで小品から150号の大作までの新作20余点が発表されます。
堀 晃の水平線を眺めてみて下さい。



 『いきのね』『PARIS湯玉HAWAII』リリース後の
 下田逸郎ロングインタビュー掲載!
パート2


 



BLUES音楽雑誌『BLUES MARKET』、1999年5/6月号に下田逸郎ロングインタビューが掲載されました。
『BLUES MARKET』妹尾みえさんの許可を頂き、Web上で公開することになりました。
かなりのロングインタビューなので数回にわけて掲載します。
パート1は、ひとひら通信2000年4月のページをご覧下さい。
続きが気になる方は書店、又は『BLUES MARKET』サイトまで!
情報を頂いた逸美さん、快く承諾してくださった『BLUES MARKET』インタビュアー妹尾みえさんに感謝します。

下田逸郎  インタビュー:妹尾みえ
わけのわかんないことを唄にのせて
わけのわかんないまま伝わるというのがすきだな


ブルースマーケット

■何だこれは?ってものを伝えるには音楽って素晴らしいと思う

--私は、日本語の歌がずーっとすきなんですけど、その一方で、どうしてずっとブルースがすきなんだろ、離れてくれないんだろって。
このインタビュー・シリーズは、そういう所から始まったんですね。
その中で、ひとりであるとか、下田さんが使うせつなさであるとかに、ブルースに通じるものを感じるんです。

下田(以下S):それはね、ニューヨークが大きいと思うんだ。二十歳くらいかな。一番爛熟期のヒッピーなんかもいなくなる直前の壊れかかってるニューヨーク。
右上へ
冬、道で人が死んでるし、普通のサラリーマンの格好したのが後ろ向きに歩いてるし、もう狂気の沙汰。
大通りからちょっと入った路地の奥でさ、ストリート・ミュージシャンだよね。表でやりゃあいいのにさ、黒人のトランペット吹きなの。爺さんに近い。
帽子はいちおう置いてるわけ。でもこっち見ないでさ、ほわーって吹いてるわけよ。
--壁に向かって。
S:そう、こだましてるわけ。カッコよかったぁ〜。
初めて入れたよ、金。それだよ。それがブルースって感じがしたな。
音楽やってたな。これしかできないけど、これで食いたいんだっていう感じだよな。
--また、その人に気づく人と気づかない人といるんでしょうね。
S:あ、そうだよ。だから気がつくのがひとりぽっちの人よ。
--もうその頃、ひとりぽっちの感覚ってあったんですか。
S:オレ、ずーっと。
--子どもの頃から。
S:たぶんそう思う。なんでか知らないけれど。
--意識したのは唄をうたってからですか。
S:ガキの頃は天才とか奇才とか言われてしまったから、そっちの方をとっちゃったかな。
奇才ってのはひとりっていう意味なんだよ。はみ出してる。その時は気がつかなかった。
右上へ
けっこう気分よかったんじゃないの。おまえらとは違うって。つるまなかったね。誰とも。
--でも、みんなと違うことやるのってしんどいですよね。
S:しんどいよ。まず一番近い友人が足を引っ張りにくる。
--それ友人なんですか。
S:友人じゃないよ。友人もいかさま言葉だから。
--そういう中でも、人をすきになったりしたら、一緒にいたいとか・・・そういう幻想に惑わされた時もあるんじゃないんですか。
S:女に走るってやつね。女に走るっていうんだったら、一緒にいたいも突き抜けてるね。女、女、おんなぁ〜〜〜!って(笑)。
遥か彼方の水平線か地平線が見えたとき、淡々と哲学者のようには行けないからねぇ。
そっち方向にいる奴を掴みにいくみたいな。でも、これじゃなぁ〜い!って。
--ふふふ、掴んでは飛ばしながら。
S:向こうもそう思ってたら最高だよねぇ。肩越し同士のね。
オレも飛ばされてね。まぁ最初は女だったね。次は場所、景色ね。今、自分。あ、なんだ、全部、自分の中でやってんだ、って。
--その変化の予感があるわけですね。振り子のふれる予感。
S:期待もね。ある意味では、そうやってもまた、まみれちゃうモノって、人間って必ずあるじゃない。
左下へ


それはオレ特別でもなんでもないから。モノを作って出してるだけで、もうすでにまみれてるわけだから。音楽の現場はライブでしょう?
--はい。
S:ライブだけよ。音楽といえるのは。それはCDで盛り上がっていく、はしゃがせていくってのは違うエネルギーだと思うから。
削られて、なくなって、唄作るのが恐くなって(でもまた)唄作りに帰っていくようなところがあるから。なるのはもう決まってるんだよね。
ひとりになりたい!ひとりになれない!って揺れるわけだから。
--音楽は、ひとりじゃ作れないですからね。
S:作れない、まったく作れない。客もふくめて。
だからキメてほしくない同士だったら一緒にやれるけど、それはもう出会い頭みたいなもんだから、いい悪いなんてないさ。誰がひとりぼっちかってのもそこなんだけどね。
みんなどっかでひとりぼっちになってるんだけれども、一緒かどうかで一緒にやれるかどうか決まる程度だから。
--ひとりぼっちを意識してるかどうか・・・?
S:いや、ひとりぽっちになってるかどうか。
--そういうひとはさみしいとは言わないんでしょうね。
S:言わない。だから逆に、すごく充実して楽しくなった時にひとりぽっちになれる。
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つまり、ひとりぽっちはとても素晴らしいことだっていうの。
泣きながらひとりぽっちの奴は、絶対ひとりぽっちじゃないって。
--勘太郎さんとおふたりでのステージを見た時に感じたのは、デュオなんだけど、勘太郎さんも干渉してこない。それがいい雰囲気でやれてる一因かなって。
S:そう。勘太郎は、今ひとりでぽつんと歌うわけじゃない。
だからある意味でとまどってるんだけど、歌いながら、あ、リードギターが欲しいなって思うんだって。
普段、ここに入ってきてほしくない所にみんな入ってくるっていうんだよ、音が。
そういうのオレやってるのかなぁ?って聞くから、やってるんじゃないの?って。
だから、女でも人間関係でも、土足の踏み込み合いがどうしても入ってくる。それがなくなってきてるんだよね、今ね。
--傷つかないでいたいのね。
S:それがめちゃくちゃって意味でもあるんだけど、めちゃくちゃってのは結局人間関係でおきるんだよね。それをホントのめちゃくちゃって言うんで、一人でぼそぼそぼそぼそ何か言ってるのは、あれはめちゃくちゃでも何でもない。
--確かに本気でぶつかってたら、めちゃくちゃになりますね。
S:もちろん。食い合いになるから。
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--これが欲しい!って奪いにいったら、絶対なりますね。
S:それで引くんだよ。これ以上やったら死ぬって。
それで距離を覚えていくんだよ
--最初から距離をとってるからいけないんだ。
S:距離ってこともわかってないんじゃないの?"山あらしジレンマ"って知ってる?
山アラシが恋をしました。抱き合おうとすると針が突き刺さり合います。それでやっとこの距離を覚えるという。
抱き合ってひとつになる事はないんだよね。でも、なりたいってのがあって、そのへんの何だこれは?ってのを伝えるためには、音楽って素晴らしいと思う、最近。
音楽がすきになった理由ね。あ、いいじゃん!って。
--作ってきたけど、伝え切れてなかった・・・"きれる"って事もないでしょうけど。
S:わかるはずねぇや!ってのもあったね。わかって、ってのはあんまり出さないで。
--ほとんどの唄は逆ですよね。自分を吐き出したくて、わかって!って叫んでる場合が多い。
S:なんかつまんないとしてら、そこだろうね。だから、桑名やキ−坊(上田正樹)がわーって唄うのは攻めてるように聴こえるけど、違うよね。
泣いてんだよね。子どもが泣いてんだよね。おかあちゃ〜んみたいな感じよね、ほとんどね。
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■わけのわかんないまま、ねぇわかんないねって言うのがいいんだよ


--そういう意味でも、ブルースって、ただめそめそ泣くことじゃないし、思い通りにならない気持ちかなと思ってるんですけどね。
S:アレックス・イーズリーってハーレムの教会で歌ってたんだけど、オレ悪酔いしてて、「なんなんだよ、神様ってのはよっ!」みたいなノリで「なぁにがゴスペルだ」ってからんだの。
そしたら「今シモダはお酒を呑んで煙草を吸っている、それがあなたにとっての神だ、やめられないものでしょ、何で吸ってるか意味もわからないでしょ?」だって。
だから、わけのわかんない事を歌にのせると、わけのわかんないまま伝わるというのがすきなんだな。
唄の中で判った風のこと言いたくない世名。でも、泣きたくもないよね。
わけのわかんないまま、こう流してさ、ねぇわかんないねって言うのでいいんだよね。
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--下田さんの歌って、"〜かな"みたいな言い回し多いですよね。こうだとは言わないよね。
S:"どうかなぁ"ってのあるな。「淫らにはなれないと気づいたらどうかな」なんて(笑)。
もう一つ言い方あるなら、「月のあかり」が結局なんで残ったかっていうと"この街でてゆくだけだよ"・・・あれも違う意味ではそういう言い方なんだ。
いい唄だもん、最近、勘太郎とやる時はいつも最後の唄だよ。
--下田さんは、泣いてるひとりぽっちを慰めるのが苦手じゃないですか?
S:昨日もそれでケンカしかかったんだ。
ライブハウスで打ち上げしてて、そこにひとりニコニコしながら呑んでるおじさんがいて、わーっとオレの顔なでるわけ、「オレのことキライ?」て。
だから「キライだよ」って言ってもまだやってるから、突き飛ばしたわけ。
でもそいつはイイ奴なんだよ。でも話せないわけ。だから一気にジャンプしてくるんだよね。子どもじゃん、単なるさ。
--多いですよね、そういう人。
S:最後はちゃんと抱きしめてきたけど。
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オレもひとりぽっちがテーマにできてる時だから、敏感になってるわけよ。
そうじゃなかったらオレも相手を触ってたかもしれないね。その距離感よ。
踏み込んでくるんだったらゆっくりゆっくりゆっくり来て、ずばっと抜いて切れみたいなノリじゃん。だけどひとつだけいいのは、人の話聞いてなくて自分の話しかしない。
だから人を攻めないんだよ。でも、(顔を触ってきたことは)攻めてきたことだと思ったんで、それはルール違反だろって。
--自分の話しかしないってそういうことか・・・鏡にはなってたんでしょうね。
S:いや、そこまでいってない。そこなんだよ、そういう風に見えるけど、いってない奴って多いんだよ。このへん(胸のあたり)に手鏡かなんかもってて見てる感じするな。オレまで視線は届いてないんだと思うんだ。オレまで届いてなかったら映んないじゃん。鏡みるんだったら距離おかないと。鏡に抱きついてこないだろう。
--そう、鏡とは同化できないもの。でも同化しようとする人いますよねぇ・・・。
S:いるな、でもそれもそこまでいってないんだよ。
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だからそれは、あなたが見てていらいらするもんを、ここは判ればいいのにって期待をこめて言ってるんだと思うんだけれども、ほっといた方がいいって。
それについて考えない方がいいって。
同化しようとしてるなんて、やさしすぎるぜ、そこまできてないんだもん、同化ってイメージがないんだもん、あったら違う出方するよ、同化することにびびるし、どこに同化しようかっていう想いがあるよ。
--やさしいって人のためになると思ってる人いるけど、それは自分がいいと思ってやってるだけですよね。
S:そうだよ、もちろんそうだよ。それはいいこともあるよね。
夢中になってしゃべる人、たとえば今のオレもそうだけど、自分に向かってしゃべってるよね。でもここまで(とテーブルを指す)はいかないかもしれない。
だってこっから先は、あなたの問題だもんな。
それが距離感だよ。ただ悪いのは、あなたがしゃべりだした時にそれを聞く耳があるかないかだよね。
右上へ
よくあるのは歌にもしたんだけど、"人の話聞いてない輝く瞳"って。しゃべってる、こっちがしゃべりだした、さて次何しゃべろうかってただ考えてる。もう完全にシャッターおりてるわけ。カラオケよ。
あれ、人に聞かせてないよね。みんな、それに向かって白々しい拍手してるわけさ。
--次に唄う曲探して譜面めくってますもんね。さっきの顔を触るって話に戻れば、愛情表現がへたとも言えますか。
S:中間を味わってないってのがキライかな、"たゆとう"が一番おもしろいのよ。
音楽もそうなんだよね、いったりきたりして。バーンといっちゃうだけじゃね。ここに目的があってクライマックスがあって A-A"-Bでサビはカタカナを使うのが今本流よって筒美京平に言われたとき、その本流がいつ変わるんですかって聞いたら、それから口きいてくんないんだ(笑)
 エジプトでね、砂漠の結婚式で音楽やってるんだけど、延々どこにもクライマックスがないの。ん〜〜〜て延々繰り返すの、じわ〜っとくるよ。
右上へ
--何の曲やってるわけじゃなくて。
S:いや曲はあるんだろうけど、単なる繰り返しじゃないのかもしれない。
でもまた沸き起こってくるものがこっちからあって。時間は螺旋階段状に・・・。
--下田さんの唄も、時間が飛んでる感じがしますよ。時間が揺れてる。唄の1番2番ていう境目がフレキシブルなの。
S:最近、そういう事を言ってくれる人がたくさんいるんだけれど、なんでだろう。
エジプトのそういうのを意識してるかもしれないし、妙に張り上げたりして、ここは聴きどこだよってやらせはキライだからって程度だよね。
オレ1枚作りたいのがあって、作りたいっていうと下世話なんだけど、4行詩ね。16小節くらいリピートなし。とりとめなく。それで全部1分くらいで終わるってのをね。


次回へ続く・・・

thanks to
『BLUES MARKET』妹尾みえ




5月3日放送の予定ゲスト:斎藤ノブ(パーカッション)
5月10日放送の予定ゲスト:有山じゅんじ(ギター)
5月17日放送の予定ゲスト:島田篤(ストリングス・アレンジャー)
5月24日放送の予定ゲスト:笛吹利明(ギター)

アルバム『ワルツの時間』に参加するメンバー全員が登場します。



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■2000年4月:●東由多加に捧げる●『ワルツの時間』レコーディングを直前に控えて
    ●下田逸郎ロングインタビュー1
■2000年3月:●レコーディング日誌。●「遺言歌」の紹介記事掲載。
■2000年2月:●たゆたい ストリングスアンサンブル誕生!。●「遺言歌」の紹介記事情報。
■2000年1月:●「時間を越えるチャンス」。●XXX情報。
■1999年12月:●「1999年のラブソング」。●XXX情報。
■1999年11月:●「弓矢のように」譜面。●XXX情報。
■1999年10月:●TVCMで「セクシィ」流れてます。●映画「皆月」で「早く抱いて」が主題歌に。
■1999年夏号:●「下田逸郎物語」本&2枚組CD発売しました
■1998年秋号:●「PARIS 湯玉 HAWAII」&「いきのね」レコーディング日誌
■1997年春号:●「あ・そ・び・な」全曲紹介&レコーディング日誌



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