ひとひら通信2000/6月


レコーディングを終えて



 ニューアルバム『ワルツの時間』レコーディング中
 レコーディング中の模様です。

 



ワルツの時間
ワルツの時間

ワルツの時間
ワルツの時間

ワルツの時間




 『いきのね』『PARIS湯玉HAWAII』リリース後の
 下田逸郎ロングインタビュー掲載!
パート3(最終回)


 



BLUES音楽雑誌『BLUES MARKET』、1999年5/6月号に下田逸郎ロングインタビューが掲載されました。
『BLUES MARKET』妹尾みえさんの許可を頂き、Web上で公開することになりました。
かなりのロングインタビューなので数回にわけて掲載します。
パート1は、ひとひら通信2000年4月のページをご覧下さい。
パート2は、ひとひら通信2000年5月のページをご覧下さい。
情報を頂いた逸美さん、快く承諾してくださった『BLUES MARKET』インタビュアー妹尾みえさんに感謝します。

下田逸郎  インタビュー:妹尾みえ
わけのわかんないことを唄にのせて
わけのわかんないまま伝わるというのがすきだな


ブルースマーケット

■唄言葉ってすごいすきだよ

--唄を作るときに、どこで推敲やめようと切るんですか。
S:だいたい方向がみえてきたときに限界だなってのがある。 あ、オレ、ヒット曲作っちゃったとか、ウソばっかって時には切るよ。で、次の唄、すぐ作り始める。だからやめらんなくなる。 けっこう気持ちいいんだけど、上半身がちがちになってしまってさ、凝りまくっちゃって、旅いけるかな、と思っても、釧路の空港着くとさーっとなくなって、酒がんがん呑んで、な〜んだって感じ。 その両方やれる自分ってのが気に入ってる。だから作詞家の時つまったんだな。
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--基本的には、自分が歌える唄しか作らないんですか。
S:そうだね、だから言葉は使い回しだね。 メロディは2〜3パターンだろうね。でも言葉が1こ変わっただけでも変わってくるんだよね。 そのときの自分の状態みたいなもんがくるからね。 それがイヤになるときもあるよ、当然ね。なんか新しい道を開発したほうがいいんじゃないかって、そういう時は調子悪いときね。
--新しいことやんなきゃ、やんなきゃって追っかけられてる人いるんじゃないですか。
S:それがプロでヒット作ってる人たちで、1つの能力だよね。でもそれは(自分に)ない。
--音楽に限らず、モノを作ると強迫観念で追いまくられませんか。
S:あるけど誰かに脅迫されんのはイヤだね。自分で自分を脅迫するのは勝手だけどさ。
--博多ではどんな暮らししてるんですか。
S:空港近いから出入りがすごい簡単。マンションなんだけど、海と山が見えて、窓の枠の中に神社があるわけ。それが気に入ってる。
--もう長いですよね。
S:うん、9年目に入ってる。
--また移る可能性もある?
S:女にトチ狂ってどこかへ行っちゃうってのも終わったし、今、ぱって(昨日までいた)旭川の雪景色がでてくるわけだから、それでいいかなって。自分の中の景色だからね。オレ、東京から引っ越すときに、学生引っ越し便で終わったの。今もそれだよね。家具はあるんだよ。でも、モノをもたないね、ギターも1本しか持ってないんだよ。
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--モノにこだわってないから楽なんですね。
S:モノにこだわらせて奴隷制をひくというのが日本じゃん。
--自分の気持ちの中でもマスターと奴隷の使い分けってのはどうですか。
S:うまいよ、オレ。七変化じゃないけど、唄作るときも。花火がさ、福岡で球体にみえる。で、唄ってさ、こう見ると平面になる立体感、空間ってのが大事でさ、空間を見れない奴もいるからさ。空間を感じるって難しいじゃん。
--空気感っていうのもありますよね。
S:ある、ある。(音楽は)空気の振動だからね。
--だからなのか、私、「いきのね」って息の音だとばっかり思ってたんですよ。
S:根っこだよ。息の根。きれいな言葉だよね。唄の響き、言葉の響き。
--『いきのね』の中に、今回だと、"あの人ぶきみ" みたいな言葉がでてくるじゃないですか。えーと、「ふしあわせさえ知らないでしあわせだという、あの人ぶきみ」。
S:"ぶきみ"もきれいだもんね。英語の意味がわからないけど、響きがきれいってのとおんなじだよな。唄言葉はね。唄言葉ってのはすごいすきだよ。
--話してる時は意識しないですか。
S:話してる時もあるよ。やっぱり、話できる奴ってのは唄ってるようなもんで。(声が)大きくなったり小さくなったり、ふっと右からきて左からきてみたいだもんね。
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--唄言葉は、普段のボキャブラリーというのか、普段から意識してないと培われないものですか。
S:全部響きだけ考えて作ってるわけじゃないよね。"たゆとう"ってのは揺蕩って書くんだよね。最初、漢字のこの雰囲気ですごい気に入ったわけ。極端に言ったらここから歌を作り始めたっていう感じだよね。。書き言葉のこっち側から、こう覗いていって作っていった。(読み方を)知らなかったの。しょうがないから"ようとう"って歌にしようかと。"ゆとう"かなぁなんて言ってたら、誰かが"たゆとう"って読むんだよって言われてどきっとしたね。書き言葉のイメージと言葉の響きが、このへんで合っちゃったんだよな。
--でもそれは言葉の遊びではないですよね。
S:うん、イメージ遊びではあるけどね。
--そのへん、ともすると勘違いしちゃう時があるんでしょうね。
S:いや・・・勘違いまでいってないと思う。壊してないのと一緒で。
--下田さん、壊れちゃったんですよね。壊したんじゃなくて。
S:うん、壊れちゃった。
--年齢は意識しますか。
S:これはあとでとってつけたんだけど、12年に1回かなと思った。エジプトで月みてたのが37だよね。で、次が49で去年ね。初めて入院したもんね。厄って言われるものはチャンスでもあるんだけど、ざわつくっていう再構築の時ね。おっぴろげてくれるわけ。だけど、みんな滅入っちゃうね、それ見たらさ、自分の吐いたものを見るようで。でも、へぇ〜と思ったらおもしろいよね。
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--どこが悪かったんですか。
S:それが "いきのね" なんだよ。胸膜炎なんだよ。夜中に息ができなくなって、その時思ったことがさ、歌えなくなる!ってこと。
--おおっ、唄がすきだったんですねぇ、やっぱり。
S:そう、オマエに嘘ついてるって感じで、やばいどうしようって。
--自分が死んでも、人に書いた曲が残っていくという考え方もありますよね。
S:そっち側の比重が大きかったはずなのに、あ、歌いたがってやんのって。
--誰かによって唄い次がれていくより、自分が唄うほうが魅力的ですか。
S:今ほしいの全部ね。作るってことより、作る、自分が唄う、作る、誰かが唄う、なんでもいい。つまり唄がでていく感じ。歌の中にあるオレじゃないものが、どんどん広がっていく感じ。ただし作るときは自分のために作る。でも、その人に合うのがあったらどんどん持ってっていいよって。
--私、中学生の頃に「PARIS 湯玉 HAWAII」にも入ってる「踊り子」が好きだったんですけど、中学生では歌えないんですよ。
S:唄の入り方が尋常じゃないもんがあるから。ただ、すごい簡単な曲ってむずかしいからね。シンプルな曲ってね。
--なんか、べたーっとしちゃいますね。
S:そうそう、子守歌が日本から消えてゆくようなもんで、
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子守歌ってのはメロディが音痴であろうと何であろうと、おぶってるここに(と背中の方をさす)本気で、差しで歌うというのがあるから歌えるわけであって、それがなくなったからじゃないかな。あれこそ振動だからね。振動させるために唄ってるようなもんで、マッサージみたいなもんじゃない。
--ノウハウはないですね。同じ唄にもその親ごと、人ごとの節回し、揺れがあって。そうだ、今日は、下田さんの唄を唄いながらここまで来たんですけど、最近、日本語で口ずさめる歌が少ないなって、つとに思うんですよね。
S:・・・それは鼻歌ってこと?
--あぁ、そうです、そうです。
S:それだよ、それがすき。鼻歌って自分に聞かせてんだよね。話してる余韻みたいなもんは、別れた後にきっとくるんだけども、その時に自分のものとして沈殿していく感じ。鼻歌も、すーっとけっこう透明なところをね。
--あぁ一度沈殿する・・・そういう唄が少ないんでしょうね。
S:そうだね、そうだね。どんどんカラオケが流行ってわけわかんなくなってほしいよ。これ唄じゃないって思うように。
--みんなが、自分は歌手だと思うくらいのところまでいっちゃった方がいいんですね。
S:うん、なれないけど。ふふふ。
--今、中間の幻想くらい?
S:ニューヨークで言えば、崩壊するところまでいった街だから、おもしろかったんだけど(日本は)その内部崩壊までいかないんだよな。
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--パンク系バンドは壊そうとしてるんだけど。
S:壊せてるかなァ〜?壊すのは、作るのとほとんど一緒だから。対象の景色とか対象のイメージとかを壊していくわけだから。それがあったら壊すって言うけれども、あるようには見えないからな。日本人、礼儀正しいし。まず礼儀くらいから壊してもらわないと、パンクの少年あたりから。パンクは敬語使っちゃいけない、コンテスト出ちゃいけない(笑)
--日本人って礼儀正しいと思いますか?
S:いや、固まりになったら無礼もんじゃん。個人でも礼儀正しいとは思わないよ、びびってるだけでしょ。だからホントの礼儀じゃないんだ。
--ただの形ですね。
S:だって、こんな形しかないとこなんだもん。やられてんだね。やられたがってもいるしね。
--待ってますよね。
S:待ってる、待ってる。
--ライブでも。お客さんが待ってるという感じはないですか。
S:それがどっか判り始めて計算しだして、オレの中でね、ろくな事起きてないから。それが一番伝わらないんだよねぇ、お、今、感動してるとか感じはじめたときに。ないとは言わないよ。イッてるって感じはあるけどね。それは1時間半くらいやったら0.5秒イケばいいだけさ。ちっちゃい小屋だったらね。
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■ホントはあるけどホントのことはない

S:よくある心理テストなんだけど、「ここに湖があります。向こう岸に渡るにはどうしますか」って。オレ、そんなもん遊覧船にきまってるじゃないかって答えたんだけど、勘太郎ね「手漕ぎボート」だって。
--それ何を表してるんですか。
S:セックスの象徴。オレの遊覧船てけっこうでかいのよ。イルミネーションがあって、人も乗ってない。静かな湖よ。
--でも手漕ぎボートと一緒に付いたりして。
S:違う湖だろ。あなたはどうするの?
--飛び込んじゃう!かな。で、深かったら戻ってきたりして。
S:向こう岸が見えるの?
--見えます、見えます。
S:映像だからね。勘太郎とのことも、映像がみえてきた程度だからまったくわかんない。次のシーンも一緒にやろうねって、CDでもライブでも、そうでなくてもいい。勘太郎はカンタロー・バンドでばんばんやって、どっかで会えばいいわけ、手漕ぎボートと遊覧船が。そうすると海に出るしかないな。
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--非常用持ち出し袋に入れたいものをいつも伺ってるんですが。
S:エジプトに行くときに、もう永住しようと思ったときに一番悩んだのはギターを持っていくか持ってかないかだったんだよね。その時は持ってった。次の時は持ってかないと思うわ。かかわってきた過去を捨てて行くってときに。
--前後しますけどエジプトはどうして?
S:最初は観光旅行で5〜6回行ったわけ。ホテルの前でにいちゃんが座ってはったりかまして客引きしてるわけよ。大笑いしてオレが「またァ〜」って言ったら、そいつが「あ、オマエ知ってんな」って言ったんだよ。そういうニュアンスよ、つまり、そいつの目つきが知ってる奴のニュアンスだったわけ。いるじゃん、へぇ〜〜オマエそうやって生きてるワケ?っての。そんな奴ばっかそこにいたわけよ、だから気になってさ。で、印税が入ってきた時期だったからぽんぽん行った。それこそ雪の旭川から来たときに、雪の方が正しくてこっちウソっぽいなぁって思ったみたいに、サハラ砂漠の方がホントに見えてきて、どんどんこっちの方がイカサマに見えてくるわけ。作詞やってる自分も含めてね。捨てるために行ったんだよ、景色を使って。それがさっき言った女を使ってわーってなるのと、景色を使って・・・ってことだよ。
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--ほんとの事って、ひとつだと思いますか。
S:うんとさ・・・ひとつだと思うよ。でも、ひとつっていうほど、生やさしいもんじゃないと思うね。"あの世からこの世経由" さって唄を作ったときに、きみの夢の持ち方次第でどこへでもゆける、どの世でもゆける・・・(テーブルの上のグラスを指し)これがこの世だとするじゃん、あの世から生まれてくるわけだよな。で、こっからあの世にいくんだ。こっちをひとつというかだな。これはモノを数える数え方と違うわけだから、エジプトのモスレムでおっちゃんと友達になって話してたら、今、オマエの心はここにはないって、そんなことばっかり言ってるおっさんなんだよね。だからそれこそアレックスにいったみたいに、「神様はどこにいるんだ?」って尋ねたら、(空の方をさし)「神様?あのへん」だって。
--ここ(胸)にいるなんて言わないんですね。
S:神はいちおう太陽とか言ったりするんだけど、宇宙とか、要は眼に見えないもの、正体不明なものは全部神様なわけさ。だから勝手に使えるわけ、神様は。神様は太陽なら、ホントはいけないんだけど、沈んだらお酒呑んでもいいの。ただ、次の日にホントにあやまんないといけないんだ。神様はお母さんみたいなものだから、なんにでもなっちゃうんだ。
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アイヌの奴が「あんなに神様にお願いしといたのに川にシシャモが来ないから怒っといたんだオレは」って言うんだよね。人間が作ったのよ、神様は。
--ひとつって考え方が違うんだな。
S:それは形のあるものを数えるとき。こころひとつって言わないんだから。・・・ホントのことなぁ。ホントはあるけど、ホントのことはない。感じることだからなぁ。感じるのに単位なんてない。本当のことだって認めるのは自分、裏切るのも自分だし、いいかげんにコロコロ変えちゃうのも自分だし。
--ブルース聴いてると、ホントの事だなぁ〜って思うんですよ。
S:それは、ゾクっとするって意味だろ。ただ、本当よりゾクっときただけの話であって。ゾクっとくるもんが本当だと思うから。・・・でもウソでもゾクっとくるよね。あの、そこの罠があってさ、オレ何でもハマるけど、形のあるもんで対応したくなるのよ。だってあんまりわかんないもんがあるから、あんたこれですよって言われたら安心しちゃう。手をうってこう、調子よくなったらまたこんなのオレじゃない!ってその繰り返しだもん。
--それがイヤだっていうのもあるでしょう。殊に、恋愛に多いケースですね。
S:それでキミは変わったとか言うんだよ、変わったのは自分なんだよ。
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--病院で、「あなたはノイローゼです」って言われると安心しちゃうような所ありますね。
S:商法だよな、商法。癌ですよ言われてもほっとしたりしてさ。結局、結婚だって家庭だって社会だってそういうものが欲しい、契約だよ。わかんないってところで手をうつのが一番いいんだよな。入院した時も、医者が数値だけで人間のことをまったく知らないんだな。命がそれだけだと思えないし、身体がそれだけに反応してると思えないだろ。だけど、それも含めてお互いに物語り作って話し会ってくれる医者なんかもういないんだな。だから、もう病気するのやめようと。わかんない事はわかんないってほっといて。オヤジが死んだときに、骨焼いて、骨でてくるじゃない、あれ、けっこういいもんだな。あ、な〜んだ、そういうことって気になるもんな。あ、これだけのことって怖くなくなるもんな。
--言われてみればそうですね。入れる前はとってもイヤですけど。
S:骨見て泣く奴いないもんな。オレ踏んづけちゃったんだけど。
--燃えちゃうんだもんなぁ・・・
S:形のないものになってほっとしてるんだよ、かたちのないものになるんだもん、オレたち。

(渋谷東武ホテルにて/協力:日本コロムビア)

thanks to
『BLUES MARKET』妹尾みえ





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■2000年5月:●『ワルツの時間』レコーディングが始まります●下田逸郎ロングインタビュー2
■2000年4月:●東由多加に捧げる●『ワルツの時間』レコーディングを直前に控えて
    ●下田逸郎ロングインタビュー1
■2000年3月:●レコーディング日誌。●「遺言歌」の紹介記事掲載。
■2000年2月:●たゆたい ストリングスアンサンブル誕生!。●「遺言歌」の紹介記事情報。
■2000年1月:●「時間を越えるチャンス」。●XXX情報。
■1999年12月:●「1999年のラブソング」。●XXX情報。
■1999年11月:●「弓矢のように」譜面。●XXX情報。
■1999年10月:●TVCMで「セクシィ」流れてます。●映画「皆月」で「早く抱いて」が主題歌に。
■1999年夏号:●「下田逸郎物語」本&2枚組CD発売しました
■1998年秋号:●「PARIS 湯玉 HAWAII」&「いきのね」レコーディング日誌
■1997年春号:●「あ・そ・び・な」全曲紹介&レコーディング日誌



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